グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

世界中のナウくてマブいおもしろ音楽物産展です🍣

アルバム『息する練習』によせて

 

 浜本談子の1枚目のアルバム『息する練習』が出ました。9曲入りのデモテープ集のような作品です。

既に聴いてくださった方の中にもリアクションいろいろがあるかと思いますが、ここでは何がどうやってこの作品が世に出ることになったのか、その経緯を少しだけお話させてください。

 

 2019年に生まれてはじめて作詞作曲し完成させた『解れた雨が結ぶ』と『魔法のこと』という2曲をsoundcloudに投稿し、それによって得難い、本当に得難いいくつもの経験をすることができました。今あらためて思い返してもどれもこれもに等しくありがたい気持ちです。

その一方で、その2曲の続編であり、進化系として同年から取り組んでいた「旧EP」こと5曲入りの作品集『愛には敵わない!』は、自分の力量に対して課したハードルがあまりにも高すぎたことなど(他要因もめちゃくちゃあります)が災いし、5曲ともを「編曲をし、ミックス、マスタリングを経る」という完成系へと持っていくことができませんでした。

「聞いてくれる人も少ないんだから、せめて内容だけは最新型の高水準なものを…」という気負いも気負いなハードルと、そして恥ずかしい限りですが、自分自身のことをよく知らないまま生きていたので、他人に頼る(どこまでが自分のできる範囲で、どこからが他人に委ねるべきか)方法が分からなかったんですね。あのときもし声を上げる方法が分かっていればもしかしたら無事リリースできている未来もあったかなと思います。もちろん今は多少ヘルシーなのでそのへんも心得てますが、その節は本当に多方面にご迷惑をお掛けしまして、そう遠くないうちにお礼参りと謝罪行脚をせねば…という感じなのですが、それはここではさておき。

 

というわけで制作開始から2年を超えたあたりで完全にキャパオーバーを迎え、先に書いた通り音楽も一切聴きたくならない生まれて初めての日々を5日ほど過ごしたのち、6日目にはロネッツ周回しまくっていたのですが、やはりEP制作中にリファレンスとして聴きまくっていた新しいビートものの音楽はまったく聞けず、しばらく50~70年代の音楽をメインに聴いていました。そこでもう一度出会い直したのがジョンレノンが1975年からの5年間録り溜めていたデモテープ群です。

 

 『Free As A Bird』や『Real Love』、さらに『I Don’t Want To Lose You』こと『Now And Then』など後にビートルズがオーバーダブし完成させることになる楽曲の原型も含んでいるそれは、かつてビートルズに触れ始めた10年前にYouTube上で一度聴いていたものでした。当時はその音質の悪さやあまりのノイズの多さに「なんだこれは…?」と思うだけで通り過ぎていましたが、

その10年後、「極力ノイズが乗らないように」と限界までハイファイな録音に腐心したり、「とにかくミストーンなく」、「とにかく完璧に」という張り詰めたような態度での制作に心底疲れ切ってしまっている自分には、そのデモのあまりの自由さや、あまりのトチりの多さ、「いい曲作ってやろう」という気負いや虚勢のなさ、中でも特に、いわゆる『Bermuda Tapes』の音源に込められている「俺は今人生を楽しんでいるぞ!!!!」というジョンレノンのヴァイブスがあまりに眩しく、本当に心の底から感動し、「ああ俺が本当に得意なことってこれだったのか…」と気付きました。

頭の中でずっと流れているメロディを捉えて、それに和音を付けて、歌詞はまあ付けたり付けなかったりして、そこまでが俺の得意なことで、10パートのトランジェントをコンプレッサーでミリ秒単位で色付けしたり、シンセサイザーの音色を何10パターンも作って変化させたり、録音した歌のピッチを1音単位で修正したりとか、そういうのはまるで向いてねえんだ!!!! ということにようやく気付きました。

 

 というわけで出たのが『息する練習』です。俺のいちばん最初の記憶は、幼稚園のスピーカーから流れるラジオの知らない曲のメロディの続きを勝手に作って歌っているところで、そこからずっと「これは『音楽』とか『曲』とかいうやつになるのでは?」とうっすら思って生きてきました。その後、中学の授業でビートルズが出てきて、仲良かった友達が「ジョンレノンが~ポールマッカトニーが~」と話しているのを聞いて「まあビートルズぐらいは知っとくか…」と帰りがけ最寄りのブックオフで1を買って「こりゃすげえ!!!」となり、別の友達に「付いてきてくんない?」と言われて「なんかアビーロードが出てくるらしい」ぐらいの感じで見に行った映画けいおん!きっかけでギターを始めて完成したのが『息する練習』です。10年掛けてようやく自分の頭の中の音(の一部)を、それほど難なく現実に持ってこられるようになりました。その間もその手前にもまーーーいろいろありましたが、ともかく。

 

俺はバミューダテープも放課後ティータイム IIの『放課後!Mix』も、のぶえの海もMad AnthonyもChuck Senrickも全部同じ枠の作品だと思っていて、人生の楽しみとしての音楽とか、憧れに近づくための音楽とか、ただ浮かんだからやってみた音楽とか、暇つぶしで生まれた音楽とか、で誰にも聴かれてない個人的な音楽とか、今はそういうのが「いいな~」と思って作りました。

あとMitch MargoのABCDEFG。この人はビートルズファンおなじみの『He’s So Fine』とかを書いた人なんですが、Spotifyで偶然おすすめされたこの曲は「『曲(メロディ、コード、歌詞)』は完璧なのに、それ以外が全部DTM始めて3日目ぐらいかよというヘタクソ度」のギャップがとんでもなく、ヘタクソなのがこれ以上なく魅力になっていて、これにムチャクチャブチのめ励まされ制作再開しました。これが今の俺の理想のひとつです。


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今現在だと、芸術は「ヘタな状態から時間をかけて上達していく」のが是みたいな扱いですが、逆に「ある程度固まった状態からヘタ(に聞こえる)に向かっていく」ベクトルを実践しているアーティストが少なすぎて面白くねーと思ったので俺もそれやろうと思います。別に上手いと下手に優劣や上下関係はなく、横並びの関係なんだなーと。

 

 それで、ジョンレノンのデモをきっかけにして世界中の自主制作盤とか本来表に出る予定のなかった音源を1年間ずっと聴いていると、作者には若くして亡くなってしまった方も少なくなく、そこでふと「じゃあ俺が今日事故って死んだら、作りかけのEPとかケータイに入ってる1500ぐらいあるボイスメモとか全部なかったことになるんじゃねーか?」と思ったら、限りなくデモテープみたいな内容だろうが、出しても誰も聴かなかろうがボロカス思われようが何であろうが出しておこうと思いました。ひとまず内容はどうあれ出すまでに丸10年かかってると思うと本当にやっと第一歩という感じで、出せてよかったです。クオリティは今後50年ぐらいかけて上げたり下げたりします。

俺にとって音楽は、壊れたら終わりの工業製品ではなく、スポーツみたいにトップを競うものではなく、売名の道具でもなく(そりゃそう)、ただただ自分と向き合うための鏡であり、コミュニケーションツールみたいなものだなと制作の途中で改めて気付きました。そして一生をかけて深めていくものだと。あと音楽を聴くにあたって「結局音源そのものの完成度ではなく、それを作った作者が音源に乗せるヴァイブスの方を聞いてんだな」ということも!! それがわかっただけでも出した意義はあると思っています。bandcamp置いとくだけなら負債も出ないし。

 

 今もし同じように「頭の中で音楽鳴ってるのに曲にできない!!!」と悩んでいる人がこれを読んでいたら、とりあえず弾き語りとか、それも無理だったらメロディだけでいいから歌って評価を気にせずどっかに向かってリリースするのがいいんじゃないかなと思います。そうすれば、そのうち音楽作るのを手伝ってくれる人が現れるかもしれません。いない場合は俺がディスクガイドで取り上げます。あと、曲作りたいけどどこから始めたら!という人に向けて今いろいろ作ってる途中なので、もうしばらく待っててください。

 

 今後は、旧EPの制作と新曲と新EPと、気が向いたらこのアルバムの曲もちゃんとアレンジして出していきますが(特に歌は技術的な問題でメロディライン自体を捻じ曲げたりしてるのでそれを直したい)、今回これだけの内容なのに9曲作業するのはまーーーーーーーしんどかったので、今後は1~2曲単位の(極力)短スパンで出していこうかなと思っています。今回はただただ頭に浮かんだものをそのまま形にしただけなのでまったくウケはないと思いますが、今作ってるやつはもっと聴いてて楽しいやつだと思うので、もしよければデジタルでもカセットでもお手に取ってシゲシゲ…としてもらえたらとてもとても嬉しいです。また普段はpixivFANBOXのほうでちまちまたまに制作中の様子もお見せしているので、音源買わずによければそちらの方でも。

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 そんなこんなで無事リリースできました。ひとりで作ってひとりで30年後とかに聞くために作ったようなものなのですが、聴いて「よかったなぁ~」と思ってくれる方がいれば本当に本当にありがたく嬉しいです。あなたと私のために今後もリリースしていきます。あとこれの制作に直接繋がったマンガ『アスペル・カノジョ』もリスペクトです。

そしていつか、俺がジョンレノンと河名伸江を同じ棚に入れているように、100年後に俺もそこに加えてくれる生命体が宇宙のどこかにいてくれることを目標に今後も活動していきます。そしてそして、ファンボご支援くださった皆様も本当に本当に本当にありがとうございます。今回ちょっと逡巡し、去年まででご支援いただいていた方は旧EPが無事完成した際にお名前を載せたいと思います。今回のに出すのはいろいろと申し訳ないので…。スミマセン。

 

というわけで制作期間中ご支援いただきました方のスペシャルサンクス!!!!!

Pちゃんさん、kzhさん、yhさん、誠に誠に大変お世話になりました。いつもありがとうございます、また変なレコードを聴きましょう!!!!!

というわけでまたそのうちどっかでお会いしましょう!!! TSUTAYAで借りたCD80枚ぐらい、ボチボチ返さないとマズいんで取り込んできます…と言いつつ最後にもう1記事あります。「なんで3枚も同じやつ同時に出てんだよ」という回です。カセットのおしらせも。

hamamotodanko.hatenablog.com