グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

世界中のナウくてマブいおもしろ音楽物産展です🍣

すべての日本人へ。星野源さん『肌』の、あたらしいリズムへの挑戦(を超ド級ファンと読み解こうの巻)

 

 (※追記、POP VIRUS発売後の未来からやってきたみなさん、

まずこちら👇の『肌』の項を読んでから、コッチに戻ってくることを強く強く強くおすすめします。かなり簡潔に&わかりやすくまとめました。

超ド級ファンによる星野源さんのPOP VIRUS特集/分析、残る13曲をいっせいに聴く最終回!!!!!! - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店 )

 

 星野さんめあてで当ブログをウオッチされている数万のみなさま、半年間たいへん長らくお待たせいたしました!! 半年はなっっっげえっス!!

 今回はリクエストいただきました星野源さんの『肌』、のリズムについてお話させていただきます。前回のコレ↓

超ド級ファンが送る星野源さんの『ドラえもん』分析(コードもあるよ)!!! - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

超ド級ファンがほめまくる星野源さんの『ドラえもん』フル分析(もちコードもあるよ)!!! - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

と話題が繋がっていて、さらに前回書けなかった星野さんの『リズム面でのチャレンジ』について触れているので、

前回読んでくださった方にはぜひ今回も読んでいただきたい…と同時に、今回だけ読んでもまったく問題ないつくりになっているのでお初の方でもウェルカムであります!! ようこそ!!

 

(そういえば前回紹介しようと思って見事に忘れてたんですが、コレ↓みなさまご存知でしょうか?

連載/コラム - TOWER RECORDS ONLINE - 1ページ目

星野さんの諸著作みたいな妙な語り口や設定の読み物です。あの雰囲気がすきor星野さんのアーカイブ全部みたい!! な方はぜひご一読を、

俺の好きなやつは『清掃員』です。俺も勝新とブライアンに清掃してほしい)

第15回 ─ 清掃員 - TOWER RECORDS ONLINE

 

 というわけで!! 本題です。シングル"Family Song"に収録されている『肌』は、花王のビオレuボディーソープCMソングという大衆向けも大衆向けの楽曲として作られたにも関わらず、しばしば「リズムが難解である」と評されます。

なぜ難解に聞こえるのか? そして、なぜ難解なリズムをわざわざキャッチーでならなくてはならないCMソングに使うのか?

 

 今回はその難解さの理由の根源と、『難解さ』を通り過ぎた先にあるリズムと生活の豊かさについて書きました。

というわけで『肌』とか星野さんレコメンドのR&Bとかヒップホップ聴いて踊りながら読んでください!!!

リズムの多様化が生活の多様化につながるということと、自分と他者が『違う』という点で交わり肯定するポリリズムについて…という内容です。

 

1, 「この『16ビート』ってナニ?」

 それではさっそく『肌』のリズムを見ていきましょう。楽曲のCDやデータをお持ちの方はぜひ曲を聴きながら譜面を見ていただきたいのですが、

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これが、冒頭から続くドラムとリズムパターンを採譜したものです。

ベースの打点(音を置くポイント)もふまえて「このリズムを口で表現するなら…」というものを下に書いておいたので、楽譜が読めなくてもきっと大丈夫なはず…

 

 ここで、ひとつめの問いである『なぜリズムが難解に聞こえるのか?』の理由が明らかになります。

それは『肌』が、骨組みこそあらゆる音楽で使われる4拍子ですが、その1拍1拍が4つに分割された、いわゆる『16ビート』のリズムをもつ楽曲だからなのです。

 「『8ビート』とか『16ビート』とかよく聴くけど、そもそもそれってナニ…?」、というわけで簡単に説明させていただきます。

 

 現在、世界中の音楽を支配しているのは4拍子です。「なぜそうなのか…」という話に興味のある方は今回もまた別の文献等にあたっていただきたいのですが、

ものすっっっっっっごく割愛すると「歩行が『1, 2, 1, 2』といった偶数拍子(2拍子・4拍子)のリズムだから…」などの理由によります。

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 これが4拍子。"1小節"というリズムのいち単位の中に音符が4つ入るリズムで、ここではその4拍すべてを鳴らしています。

「ドン、カン、ドン、カン、」で1小節(=リズムのひと区切り)。

「ドン」と鳴らしている楽器が『バスドラム』、「カン」と鳴らしているのが『スネア』、

そして、ドンカンドンカンのウラで「チッチッ」と鳴っている楽器を『ハイハット』といいます。

 この4拍子の1拍1拍、それぞれを2分割します。

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そうすると4×2で、1小節の中に拍が8拍存在することになります。

この8拍を基礎として演奏・進行していく楽曲が『8ビート』。ロックを演奏するなら絶対に欠かせないリズムですね。 

参考動画ではハイハットだけがこの8拍のグリッド(=マス目)を鳴らしていますが、

実際の楽曲ではベースもギターもボーカルも、またバスドラムやスネアなど、ドラムの他のパーツもこの8拍のグリッドに沿って音を鳴らしたりしています。

 

 8ビートで作られた有名なポップスを何曲か(といいながら2曲)持ってきたので、すこし難しいかもしれませんが、普段よりちょーーーっとだけリズムにフォーカスをしぼって聴いてみてください。

『どこを聴けば8ビートがつかみやすいか』というポイントも併記したのでぜひご参考に!!

 イントロが明けたAメロ0:22~、2本のギターが8拍のグリッドで刻んでいます。 

 そして星野さん楽曲で8ビートが聴けるのはこの曲。イントロ0:07~、ハイハットが音色を変化させながら鳴っているので掴みづらいかもしれませんが、8拍すべてを鳴らしています。

 

 そして、対してこちらが16ビートです。4拍子の1拍1拍を4分割することで、

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4×4、1小節の中に拍が16拍存在することになります。この16拍を基礎として演奏・進行していく楽曲が『16ビート』。

こちらはR&Bやジャズ、ヒップホップなど、ブラックミュージックでは基礎中の基礎といえるリズムです。

8ビートよりもグリッドの目が細かいので「どの拍を鳴らすのか」という選択肢が増え、リズムパターンのバリエーションもグッと広がります。

 「そのため」、とは言いながらしかし16ビートにかぎらず、8ビートの場合でも多少は同様なのですが、16拍(あるいは8拍)すべてを鳴らさず、どれかの拍を欠けさせることも非常に多いです。

 

 こちらの楽曲では『16拍全て鳴らしている』パターンと『16拍叩かずに欠けさせている』パターン両方を聞くことができます。

 0:11~、ハイハットが16拍を叩いています。

「『ドン、カン、ドン、カン』とリズムパターンが一周する間に、ハイハットは1拍が何等分されたリズムを叩いているのか(≒1小節に何回鳴らされるか)」を数えると、

その曲が8ビートなのか16ビートなのか、あるいはもっと違うリズムなのかがわかるように作られている曲が多いので、ぜひいろいろな曲で確かめてみてください。

  そしてお気づきでしょうか、イントロが明けてAメロに入った瞬間(0:58~)、ハイハットは16拍ではなく、半分の8拍を刻み始めます。

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また2:16~、2番のAメロではこのように

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16拍のうち、計4拍ぶんの欠けが起こっています。

 星野さんの楽曲にも、おなじようにハイハットの叩く音の増減が起こる曲が。こちらは『R&B/ネオソウルとJ-POPの融合』といった趣きでしょうか。

 0:30~、こちらもハイハットが16拍を刻んでいますがその後サビ(1:32~)で8拍に減少し、間奏でまた16に戻ります。

 また『肌』のドラムは16拍のうち、この拍を使用してあのフレーズを作っています。6拍ぶんの欠けが起こっていますね。

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 というわけで8ビートと16ビートのちがいのご説明でした。必要な知識をインストールして、ここからまた本筋です!!

 

2, お茶の間を巻き込んだ、15秒と30秒間のスーパースケベタイム

 さて、8ビートが広く用いられているロックが日本でも市民権を得ているのに対し、16ビートが用いられるR&Bやヒップホップといった音楽はまだお茶の間レベルの理解を得られていない、というふうに感じているのは自分だけでしょうか?

 

 以前この記事で書いた『演歌とかフォークとかロックとか、日本の大衆音楽であるとされてきた』音楽は、いずれも(大きくは)8ビートのリズムをもつ音楽です。

『シナモン(都市と家庭)にみる、日米ポップスの調性感/モード感の差異』(コードもあるよ〜) - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

 「チャートインした楽曲=広く大衆に受け入れられている」とカンタンに結びつけられる時代ではないと言われますが、

それでも今週(2018年7月16日付け)のオリコンチャートTOP10のうち、明確に「8ビートだな」と感じられた曲は6曲、16ビートが3曲、残りの1曲は3連系のリズム、ということで8ビートが半数以上を占めています。 

 (6曲のリンクを貼っておきます、「えぇ〜ホントにそんなに多いの?」という方はぜひ参考にしてください。

DISH// 『Starting Over』MUSIC VIDEO -Short Ver.- - YouTube

【試聴動画】Poppin'Party 10th Single 「二重の虹(ダブル レインボウ)/最高(さあ行こう)!」(7/11発売!!) - YouTube

アイドルカレッジ「AKATSUKI」Music Clip - YouTube

【MV】欲望者 / NMB48[公式] - YouTube

己龍「無垢」MUSIC VIDEO - YouTube

DAIGO「真夏の残響」MV(Web Size Version) - YouTube)

R&B・ヒップホップの本場であるアメリカのビルボードチャート(7/28/2018付け)トップ10の楽曲を見てみると、8ビートはなんと1曲もランクインしておらず、日本のチャートとは見事な逆相を描いています。

楽曲はすべてR&B、ヒップホップのみでした。

 

 過去数十年からいま現在まで、日本の大衆音楽は音楽の三要素のうち『メロディ』と『ハーモニー』を進化させる方向に圧倒的に傾いており、残る『リズム』についてはほぼ黙殺されています。

島国であり、そして世界中の音楽のトレンドの発信地であるアメリカに対して特別な感情をもつ日本の音楽は、独自のガラパゴス的な進化を遂げてきました。

メロディやハーモニーが実験的な曲は比較的チャートにものぼりやすいのですが、リズムが実験的な、というより難易度がリズムに集中している曲がチャートインすることは非常にまれなのが現状といえます。

 

 「なぜ日本では『4拍子2分割=8ビート』がそんなに優勢なのか?(なぜリズムを黙殺してきたのか?)」」ということに関しては、

・『農耕民族だから』

(鍬を振ったり歩いたりの「イチニ、イチニ」の大づかみなリズムが体に染みついており、『拍を細分化する』という感覚自体がそもそも生得的ではない)

・『3拍子は日本人とは縁遠い乗馬=英国文化のリズム』

・『そもそも民謡がほぼ4拍子』

また、「1拍を2等分すればいい8ビートより、倍の4等分もしなくてはならない16ビートはそもそも単純に難易度が上である」など様々な理由が挙げられます(どんな動作でも「それ倍速でやって」と言われて急にはできないのと同じですね)。

 岸田秀氏や堀井憲一郎氏が著書で指摘するように…とこの点に関しては膨大なテキスト量を使用してしまそうです。

が、やはりここも正確なところは他文献に当たっていただくとして、それよりもいま肝心なのは『なぜこうなったか』よりも『いま何が起きているのか』と『これからどうするか』にあると思います。

 

 メロディとハーモニーに特化した音楽がチャートや世間を賑わせている只中にあって、その中でも第一線に立って日本人のリズム感を改革すべく活動しているうちのひとりが星野さんであり、また多くの、世界中の音楽に触れて育ってきたミュージシャンたちであるといえると思います。

 上で貼った小沢さんの記事で書きかけた通り、ジャズやR&B、ヒップホップのリズム感を体得しているミュージシャンたちが続々とチャートに食い込みはじめています。

先で挙げた"STAY TUNE"は「CMソングに起用」、「耳に残りやすいサビ」、「イイ感じのアシッドジャズ」といった数々のポップな要素の裏で、知らず知らずのうちに我々に16ビートを浴びせていました。

 

 また近年では、ヒップホップやR&Bなど、ブラックミュージック解釈能力がアジアではナンバーワンともいえる韓国のアイドルやミュージシャンの楽曲を通してリズム感を体得する人もいますし、

先日『球体』をリリースした三浦大知さんも、日本国内で日本人に向けたポップソングを歌っていますが、しかしその楽曲のリズム解釈力などは韓国のミュージシャンたちのそれと遜色ないように響いています。

 

 そして前回書いたとおり、星野さん自身も大ヒット曲『ドラえもん』で、ロックやリズム&ブルース、ジャズなど多くの音楽の基礎となった『セカンドライン』を改造したリズムを大ヒットさせたり、その前作である『肌』で16ビートにトライしていたりと、

真摯な歌詞やポップなサウンドの裏にひそやかに隠して、実は16ビートなど、まだ日本人が不得手とするリズムをお茶の間に浸透させようと尽力しています。

 

 これがはじめの問いへの、2つ目の答えです。CMソングという大衆音楽も大衆音楽といえる世界の中に、大衆的な理解を得られていない16ビートの楽曲を放り込むことで、もっとも威圧的でない、自然な方法で16ビートを日本に定着させようとしたのです。

星野さんは頭を押さえつけるように無理やり勉強させるのではなく、ポップなメロディや独創的な歌詞のウラにそっと隠すように、ひそやかに、スマートに新鮮なリズムをお茶の間に響かせていました。知らず知らずのうちに我々を16ビート好きにさせてしまっていたのです。さすが「スーパースケベタイム」を自称しただけのことはありますね、だいぶ変態!!!

 

(そしてこれは横道&邪推ですが、「『肌』でトライした16ビートが大衆に広くは受け入れられなかったため、次回作の『ドラえもん』ではセカンドライン/クラーベ(=16ビート)を基としながらもノリを日本人好みの8ビートに改造したリズムで打って出た」結果ドドドドドドドド大ヒットを生んだ…と考えると『ドラえもん』でセカンドライン/クラーベの打点がなぜあれほど工夫されていたのか合点がいきます。「100%あのキュートなリズムパターンのおかげでヒットした…」とはもちろんさすがに言えませんが!!!)

 

 

 また、16ビートなどの細分化されたリズムの実験は、これまでも細野晴臣氏をはじめとしたはっぴいえんど一派やYMOらによって行われてきましたが、大衆はいずれの楽曲もメロディやハーモニーの側面から消費し、その実験的なリズムの側面についてはほぼ黙殺してきました。

73年の時点で完全にアメリカの16ビートを取り込み、唯一無二のリズム感を構築している細野さんのベースラインに、驚嘆を通り越して畏怖の念を感じざるを得ません。

 その細野さんの正当な後継者として指名された星野さんが、やはり命題的に、細分化されたリズムをもつR&B/ファンク/ヒップホップ/ネオソウルに取り組むことは、前回の繰り返しですが、当然のことなのです。

細野さんが成し得なかった日本人のリズム感の改革を、星野さんがそのまま引き継いでいるのだと考えると、星野さんにまつわるあれこれに関して、自然と視界がひらけてくるかもしれません。

 

 アミューズ移籍以降の星野さんを取り巻く環境を考えるに、老若男女、老いも若きも男も女も男でも女でもない人も、日本中のあらゆる人たちが星野さんの音楽を聴いています。

紅白で歌われた"Sun"も"Family Song"も、そしてCMに起用されていた『肌』も、いずれも16ビートです。これからどんどんと、16ビートを聴いて育ったというリズムのリテラシーが高い世代が増えていきます。

 

 それから、「いままでは8ビートの音楽ばかり聞いてきたけど、星野さんの音楽で16ビートに触れた」という方もいると思います。リズム感の体得に、年齢や人種はまったく関係ありません。

どのタイミングでも「8ビートと16ビートっていうのがあるんだ」と気が付いたその瞬間から、リズム感の変革は静かにはじまっています。

確かに、育った周辺の環境や文化はリズム感とおおきく関係があると思います。が、「自分は日本人だし、そんなこと言われてももうリズム感なんかずっと悪いままここまで来ちゃったし…」という方でも、意識すれば必ず変わります。それは、数年前までそうっっとうなリズム音痴だった自分が保証します!! 

 

3, 次の『君』につながれ!!

 そうした現状を省みるに、数十年後の日本のヒットチャートにはもっと多くの16ビート楽曲が食い込むようになると思います。

スマートフォンの普及によって年齢や国籍などあらゆる制約を受けず、カンタンに世界中の音楽にアクセスできるようになった今、よりミュージシャンたちの鳴らす音は多様化(または欧米化)していくはずですし、

また動画サイトなどで無料で閲覧できる楽器などの教則ビデオによって、さまざまなジャンルの演奏法を基礎から応用までしっかりと学ぶこともできるようになっています。

 

 ですが、音楽は多様化していくのに対して、一方で我々リスナー側のリテラシーはそのままでよいのでしょうか? 歌詞からだけではなく、コード進行や各楽器の音の重ね方など、音楽の構造的な側面からはアーティストの表現したい感情を読み取るのは不可能なのでしょうか?

また、自分の外側にあるあたらしい音楽や価値観は、一切触れることなく切り捨ててしまってもよいのでしょうか?

 

…と書くと少々高圧的で、難しいことをさせようとしているように感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、ここまで丁寧に目を通してくださっている皆さんはすでに『8ビートと16ビートの違い』という、音楽の三要素のうちのひとつであるとても大切なリズムのリテラシーを獲得しています。

この2つを知るだけでも、いま日本で作られている音楽の少なくとも70%超は確実にカバーできますし、そしてなにより「縁遠い」と思われているヒップホップのリズムだって理解することができます。

 こちらは日本語のヒップホップとしてナンバー1, 2を争う人気曲で、星野さんも間違いなく好きだと思う曲です…(小声)。40秒すぎから、少しだけでも聴いていただきたいのですが、

 0:43~、ラップの入りはご覧のように16ビートです。ところどころで16拍のグリッドから逸脱したリズムが登場しますが、基礎は16ビート。

ぜひ頭の中や、実際に手指で机を叩いて「『タカタカ』『タカタカ』…」と16ビートを刻みながら聴いてみてください。

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 みなさんは今回星野さんの音楽を通して16ビートを勉強しましたが、今度はそんな16ビートを使って星野さんの曲ではない、一見するとまったく関係のなさそうなヒップホップの曲をアナライズすることができました。でも『肌』とこの曲は16ビートを前面に押し出している、という点で共通しています。

つまり、音楽を勉強する入り口やきっかけさえ掴めてしまえば、あとはそこで得た知識を応用してあてはめていくだけとも言えるのです。

あなたの好きな曲やアーティストを通して身につけた知識が、あなたの好きな違う曲やアーティストの曲と、意外なところで共鳴しているかもしれません。

 また、理論やいろいろな音楽とその価値観に触れることで、今までとは違った角度から音楽やアーティストを見ることができるようになれます。

 

 たとえばクラシックの曲を聴くにしても、クラシックを好きな人はクラシック音楽の聴き方で聴きますし、ポップスを好きな人はポップスの聴き方で聴きますし、ヒップホップが好きな人はヒップホップの聴き方で聴きますし、

その3つすべてが好きな人は、ひとつの楽曲を3通りの聴き方で楽しむことができます。ポップスをクラシックの視点から分析したり、何だかみょーちくりんなアイドルソングだって、ヒップホップ的なリズムアプローチで分析してみると実はとてつもない曲だったり。

 

 そしてなにより、リスナーが進化すればシーンが進化し、音楽を取り巻く環境も進化し、チャートも進化し、間違いなくアーティストやその楽曲も進化します。

いろいろな環境が変われば、もしかしたら積極的に音楽を聴かない人でもカンタンに好きな曲に出会える世界に変わるかもしれません。もっと気軽にさまざまなジャンルの音楽を楽しめるようになるかもしれません。

また星野さんのつくる楽曲も、J-POPシーンの成熟によってより制約を受けない、自由なものに変わっていくかもしれません。アーティストたちの表現の幅が増えることは、そのファンにとってもひとつの望みと言えるのではないでしょうか。自分も、J-POPという枠からすこし外れてみた星野さんの音楽を聴いてみたいと思っています。

 楽典や理論は、決してあなたの敵ではありません。むしろ音楽をめいっぱい、そしてよりいっそう楽しもうとしている、これを読んでいるあなたの強い味方です。

 

 ほんの少しの「このアーティストが鳴らしている音の真意に近づきたい!!、「もっと音楽を知りたい!!」という気持ちや熱意だけで、『音楽理論』という言葉につきものの「難しそう」「とっつきづらいし、音楽やってないのに勉強する意味あるの?」といったイメージは晴らすことができます。

今回勉強したようなほんのちょっとした知識を少しずつでも蓄えていけば、アーティストが書いた歌詞の意味を読み解くように、アーティストが紡ぐコード進行やハーモニーの意味を、アーティストが数ある中から選択したリズムの意味を、読み取ることもできるようになるのです。

 

 また、そういうことをやる人間が『歌詞を読み解く』ということをやる人と同じくらいいてほしい、そしてそれは『歌詞を読み解く』ということに負けず、充分エンターテイメントとして成立し得るはずだとずっと思っていました。

 そのことをなんとか示せたのが前回の、いささか熱っぽすぎる『ドラえもん』のアナライズだったと思います。作者である星野さんの解釈と違うところも多々あると思いますが(同時に同じところもけっこうあったぽくてビビりましたが!!)、読んで「コード真剣に勉強してみたい!」とありがたいことをおっしゃってくれる方がいたり、「言ってることはほとんどわからないけど面白かった!!」とおっしゃってくれる方がいたり、文章に対する褒め言葉としてはそうとうに先進的ですが(笑)、まさに考えていたとおりの読み方をしていただけたこと、とても嬉しく思っていました。

 そして『面白くて何度も読み返しているうちに、いつの間にか知らない間に言ってることがだいたいわかるようになっていた…』状態になっていただくのが自分の最終目標です。今日はそのダメ押しに来ました!!!(笑)

 

 最初は誰でもわかりません、自分も最初は「1小節…ってナニ!?」という初歩の初歩からスタートし、16ビートはおろか8ビートを刻むことすらもままならないズッコケ野郎でした。

が、自分に合った書籍や先生に出会い、時間をかけて勉強することで、『ドラえもん』やこのような記事を書けるまでに何とか成長しました。つまり、いま「確かに音楽の勉強はしてみたい…。けどホントに何にもわからないからどうしていいのかもわからない!!」と思っている方でも、絶対にこのくらいのことは出来るようになります!! それはズッコケ野郎が断言します!!

 

 そして「音楽理論なんか知ろうとも思わない」、「新しい音楽とかリズムとかどうでもいい」という方にも、星野さんがお好きであれば過去にこういうのも書いてます!! チロっと聴いて「ふーんまあこんなもんか」程度に思っていてください、こういう音楽たちが今後日本のシーンにも登場し、チャートをきっと賑わせてくれる日がくるはずです。

超ド級ファンが星野源さんの好きそうな(or好きな)曲を集めてみましたの会(その①) - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

自分の内にはない新しいものや新しい文化・価値観と真っ正面からぶつかっていくのは時に傷つき疲弊しますが、しかし確実にその経験は自分を救います。今いる世界とは違う世界のモノの見方を獲得するため、常に傷つき磨かれフレッシュでいることこそ、ときにキツくハードすぎる日常をクールに生き抜くための術ではないでしょうか。

 

特にこれは「外国に行こう!!」という話ではなく、「ちょっとおうちとか出先でいろいろな音楽を聴こう!!」とか「ちょっとだけリズムとかコードのおべんきょうしてみよ!!」程度の話です、 海外で異文化経験するとごくまれに命を落としますが、音楽ちょっと勉強してもタマぁ落とすことにはまずならないんで!! それもズッコケ野郎が断言します!!

 

 この世界には本当にたくさんの音楽があります。『そのすべてを楽しめなければ損である』とは絶対に言いませんが、できるかぎりは楽しめた方が得であるとは言い切れます。好きなものは多い方が絶対に楽しいですから!!

自分の外にあるあたらしい価値感や文化に対して排他的になるのではなく、ほんのちょっとしたことを知るだけでお互いにその価値を認め合う関係になることは、場合にもよりますが、絶対に無理ではないと信じています。さまざまな音楽が、次の世代にさまざまな生き方を、さまざまな人生の喜びをもたらしてくれるよう願っています。

 

 ここまでは「拍を細分化することでリズムパターンが多様化し、音楽も多様化する」というお話でした。そしてその先、拍を細分化した先、音楽が多様化した先に生じるポリリズムが生みだす『ダンスの喜び』というものが、確かに存在するのです。

それは『他者と自分が違う、違っていてもよい』ということを強く肯定する、我々を生かすための踊りです。

 

 というわけで前半でした、「最後のほうお源も肌も出てこなかったじゃねーか!!」という方ごもっともです!! 書いてたら予想外の方向に話が進んだので前後編に分割することになりました、後編では『肌』のアナライズとポリリズム話に取り掛かります!! 

星野源さんの言う「自分のダンスを踊って」の超ド級ファンの解釈、と『ポリリズム』の巻 - グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

 後半は譜面こそ多いですが文章量はこっちの半分くらいなので、勢いで一気に読み通したほうがいいような気もしますが、「いやちょっとここまででカロリー過多っス…」という方はちょっと休憩して後半に行くなり、また前編といっしょに後日読みかえしていただけると…せっかくこんなネット辺境まで来ていただいたので…!! どんだけ時間かかってもいいので最後まで読み通していただけると嬉しいです!!

最後にちょっとツッコミポイントの補足です。

 

 ・小沢さんの記事で書いた『アメリカの音楽を追従するだけでいいのか問題』ですが、追従できないより圧倒的にできたほうがいいと思いますし、どうせならリズムまで食い切っちゃって&完全に取り込みきっちゃってもっと独自進化遂げたほうが絶対面白いじゃぁいスか!!

 

(そして加えて補足しますが、今回ここで書きたいのは「8ビートは簡単だからスゴくない、16ビートは難しいからスゴい」という話ではありません。それぞれのリズムにはそれぞれの長所短所があり、作編曲者がどちらを選択したかという話であって、上で書いた通りもちろん8ビートの好きな曲いっぱいありますし、8ビートor16ビートの好きな曲を挙げろと言われれば比率的にはギリ16のがちょっと上…くらいだと思います。

たまたま日本では8ビート勢力が優勢で、16ビート勢力が劣勢なので当記事でちょっと少数派の肩を持ったというだけのことです。『100人いたら100人同じ曲を作る世界』よりも『100人いたら41人くらいは違った曲を作る世界』の方に住みたいので!!!!!!!)

 

・また、「うーんさっそく勉強はしてみたいんだけど…」という方にはコチラをおすすめいたします。有料ですが、自分の知りうる限りでは初歩の初歩からいっっっっっちばん楽しく、親切に、丁寧に、やさしく音楽理論を教えてくれています。月額さえ払えば、リズムの講義もコード理論の講義もみほうだいですよ!!

菊地成孔 "ビュロー菊地チャンネル「モダンポリリズム講義 第一回」" - YouTube

YouTubeにおためしセットが挙がっているので、ぜひ参考にしてみてください。

 

 ひとまず、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。読んでくださった皆さんにいつも音楽の加護がありますよう、そして音楽がみなさんの護符としていつも正しい方向に響きますようお祈りしております、それでは次ページでお会いしましょう!!

 

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