グランマガザンえぞ屋さんはてな支店

世界中のナウくてマブいおもしろ音楽物産展です🍣

『シナモン(都市と家庭)にみる、日米ポップスの調性感/モード感の差異』(コードもあるよ〜)

 

 発売されましたね~シナモン。「コードだけ見てって帰りてえ」って方もいると思うんで長ったらしく書かんどこと思うんスけど、コピーして愕然としましたサビがワンコードなんですよおおおお。ヤバいっスよねええええ。

 以下コードです、友達とみんなで歌うとかひとりで弾き語るとかポピュラー和声の教材にするとか、なにか無利益かつ有用なことにお役立て下さい~~~

 

Key=G/Em→A/F#m, 4/4

[C'] 

C△7 → C6 → C△7 → (5/4)C6 → 

[Intro]

(4/4)Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → B7sus4 - B7 → 

[A]

Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → B7sus4 - B7 → 

Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → Dsus4 - D → 

[B]

Bm7 → Em7 → Bm7 → Em7 →

DonC → GonB → Am7 - Am7onD → 

[C]

C△7 → C6 → C△7 → C6 → 

C△7 → C6 → C△7 → C6 → 

[Inter = Intro]

Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → B7sus4 - B7 → 

[A]

Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → B7sus4 - B7 → 

Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → Dsus4 - D → 

[B2]

Bm7 → Em7 → Bm7 → Em7 → DonC → GonB → Am7 - Am7onD → 

Bm7 → Em7 → Bm7 → Em7 → DonC → GonB → Am7 - Am7onD → 

[C2]

C△7 → C6 → C△7 → C6 → 

D△7 → D6 → D△7 → D6 → 

[A3 = Guitar Solo]

F#m7 → Em7 - A7 → D△7 → C#7sus4 - C#7 → 

F#m7 → Em7 - A7 → D△7 → Esus4 - E → 

[B3]

C#m7 → F#m7 → C#m7 → F#m7 →

EonD → AonC# → Bm7 - Bm7onE → 

C#m7 → F#m7 → C#m7 → F#m7 →

EonD → AonC# → Bm7 - Bm7onE → 

[C3]

D△7 → D6 → D△7 → D6 → 

D△7 → D6 → D△7 → D6 → 

[C'3]

D△7 → D6 → D△7 → D6

 

 音源版に対して言いたいのは「アイキャンゴーフォザッとあのパンチライン消しちゃいかんだろ…」に集約されるんですが、まあ、それはポップさのためだからしょうがないのかな…ともかく無事発売になったことを喜びます!!! いえい~~

 

 ほんでタイトルの『アメリカうぬぬぬ』に向かって話を進めていくと、以下3点がざっくり「アメリカの大衆音楽にあって日本の大衆音楽にないもの」として簡単に思いつくものです。

・調性が平行調間で揺れており、どちらとも解釈できる

・テンションコード

・係留=モード(ブルース/ジャズ/ファンク/ヒップホップ)

  日本の大衆音楽に精通している方は「日本のミュージシャンもかつて獲得し得たのだが、文化的断絶において失われたもの」も含まれていることにお気付きになると思いますが、本稿ではそちらは脇道ですネ。

 「ものすごく大雑把に言ってしまえば、日本のポップスシーンでそれらを消化し根付かせたのは『はっぴいえんど一派』なのでは?」という仮説を立て、各楽曲の構造をテクニカルタームから解説し、「様々な理由から今まで一般的なレベルでは咀嚼され得なかったアメリカ音楽の要素が、時代を経て日本人の耳にも一般的になっていった」…とこねくり回して書いていくつもりでしたが、基礎から説明すると心底疲れることが『秘密のトワレ』の項で分かったのでやめます!!(笑) ダメでした!!! 超簡単にいきます!!!

 

 まず『調性が平行調間で揺れており、どちらとも解釈できる』ですが、アメリカのR&Bとかでよく聴けるこういうやつのことで↓

(※、平行調→「明るい響き」といわれているメジャーキーの中には「暗い響き」といわれているマイナーキーも同時に存在しており、その逆もしかり、その関係を『平行調(レラティブキー)』といいます)

 キー揺れてる進行代表、『IV△7 → III7 → VIm7 → Vm7 - I7型』進行(マイナーキーだと『♭VI△7 → V7 → Im7 → ♭VIIm7 - ♭III7』)

 マイナーで取ることのが多い(かな?)進行ですが、メジャーでも取れるコード進行。

 ”I Like It”は特に顕著ですが「明るい感じもありながら、でも暗い感じもある」という感じの調性感。おそらくこの感じにはブルースが大なり小なり関わっており、同時に、この調性感が日本であまり根付いていないのはブルースが生得的ではないからだと考えられるのですが…識者に丸投げ!!!

 

 対して日本では、演歌とかフォークとかロックとか、大衆音楽とされてきた音楽は基本的に調性がクッキリしたものが多いです。演歌とか特に「ドマイナ~~~お前を殺して私も死ぬ~~~」みたいなイメージが強いはず。基本的に輪郭がくっきりしていて白黒ハッキリしたものが強いのかな〜と思われます。

 そういう音楽が圧倒的マスだった時代から、アメリカ音楽を聴いてブルース調やら調性が揺れてるような音楽にトライしていたのがはっぴいえんど派閥で、『風街ろまん』とか聴くと「なっ71年でここまでの咀嚼力…」となってしまい「日本語でロックをやった始祖」だとか言う前に71年の段階であそこまで欧米に肉薄していたということがおったまげというより恐ろしいんですが…

 ブルース概念の説明ははしょりますが、『調性が平行調間で揺れており、どちらとも解釈できる』曲の分かりやすい例として、

氷雨月のスケッチ

[Unofficial]

を挙げます。平行調のトニック(EmとG△)が交互に現れるので、そこまで「どっち!? メジャーなのマイナーなの?」というのがはっきりしていません。入りがEm(なうえにクリシェが印象的に響く)なのでマイナーっぽいっすが、先へ進んでみるとGへのドミナントモーションが存在し、Emへのドミナントモーションが存在しないので「キーGメジャー」として考えることもできます。

 

 みたいな感じです!! 次!! テンションコード!!!

上で触れたように『調性がくっきりしている』ということは、つまりテンションを盛らないということなので(ものすごく簡単に言うとマイナーメジャーどっちのコードも、どんどんテンションを乗せていくとコードがメジャーなんだかマイナーなんだかがわかりづらくなる)、J-POP史的には黙殺じゃないですがタツローユーミンの台頭あたりまで、ほとんどテンションバリバリのポップスはなかったんじゃないかなあという印象があります。この話書くに当たってした準備らしい準備が相倉久人さんの『至高の日本ジャズ全史』読んだだけなんスけど…あながち間違ってないような気もします、もちちゃんとのちのち音源と文献あたんないとダメですけどね!!!

Windy Lady

[Unofficial]

 久々に聴いたらテンションの使い方があまりにこなれすぎていて、アホな話ですが「K-POPみたいだ…」と思ってしまいました…。70年代半ばにアジア人が作ったR&Bの中では間違いなくトップの咀嚼力だと思います(ぜひ『ベトナムの80年代のポップス』とか『中国の70年代のR&B』とか『韓国の60年代のブラックミュージック』シーンに詳しい方からおはなしを聴きたいところ!!)

 端的に今みたいな感じで、現在のアジアンR&Bに対する認識として「4和音だとJ-POP、テンション入るとK-POP」は割と間違ってないと思います!!(笑) 単純に『アメリカ音楽の咀嚼力』のみを日本と韓国で比較したとするなら、今現在では圧倒的に韓国に軍配が上がります。

がしかし、ありとあらゆる理由から『アメリカ音楽の咀嚼』を不必要だと思ってきた(あるいは意識的にしろ無意識的にしろ拒んできた)日本人の(特に若者の)感覚が、今また刷新の時期を迎えており…(げふげふ)

 

 ラストの『モード』は、これはもう読んで字のごとく音楽の起爆性というかエネルギーをどこから汲み取るのかという話で、コーダルが『ドミナント→トニック』の緊張と弛緩を利用した、進行するストーリーテリングだとすれば、モーダルはなんつうか、ステイすることにエネルギーを見出すというか、何もないところから何かあるを見つけるというか…。プーさん!!(笑)

 同じことを繰り返すことでパワーを生み出すものってありますよね、かなり仏教的なパワーだと思いますが!! この『モード』は、アフリカンパーカッションから経過を挟んでブルースへ、ブルースからジャズ、ファンク、ヒップホップへ~~~という、要はこれまたアメリカのブラックミュージックの特徴です!!!

砂の女

[Unofficial]

 この曲、イントロと平歌のコード進行がII-Vの往復だけで、コーダルな曲の『I-VI-II-V-III-VI-II…』みたいに展開していかず、その場に留まっている…すなわち係留感ですが、ワンパートまるまるがこんな風に進行しないで作られることって70年代の日本のポップスでは比較的珍しかったのでは?

(アメリカのR&Bって同じコード進行がひたすら繰り返されてる曲がめちゃくちゃ多いですよね。いざAメロBメロサビで全部コード進行が違うJ-POP聴いたときに「なんて至れり尽くせりなんだ…。さすがおもてなしの国…」と感動してしまう…)

 

 こう考えるとやっぱ『ブルース/モードの有無』がかなり音楽的な生理感に影響を与えるんだなあむむむむという感じですね。

 さて、それらを踏まえてもう一度『シナモン』を見てみると、かなり色濃くアメリカ音楽的要素が感じられるのでないかなと思います。

 [A]部の

『Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → B7sus4 - B7 → 

Em7 → Dm7 - G7 → C△7 → Dsus4 - D →』という部分では、4小節目ではマイナーへのドミナントモーションが行われていますが、8小節目ではメジャーへのドミナントモーションが行われており、「メジャー!? マイナー!? どっち!?」と厳密に断定することが難しくなっています。

 そして何よりサビの『C△7 → C6 → C△7 → C6 →』という進行ですが、見てお分かりの通りCのワンコードになっています。こんなに進行しないサビを持つ曲は今週のオリコンチャート(11/6/2017付け)には1曲もランクインしていません。この係留感は日本の、少なくともポップスシーンにおいてはまだ希少価値です。

 と同時に、このサビを含めたコード進行は8小節のみですが、小沢氏が愛してやまないカーティスメイフィールドの楽曲”So In Love”との一致が認められます。ですが、この曲においては90年代当時のように『ガッツリ意識的にサンプリングした』というよりも、『自分の好みに合わせてコードを付けてみたら、気がついたら大好きなカーティスのアレと同じになってしまった』というように聴こえます。つまりこれが本稿のまたひとつの結論なのですが、以前は棚から掴むように、自分の外にあるものとして引用していた音楽を、小沢氏はアメリカや諸外国で20年間過ごすことによって完全に血肉化し、自分のものとすることに成功したと言えると思います。『シナモン』には”Eclectic”収録の楽曲群から感じられる『ありとあらゆるコンフリクト感』が一切感じられません。日本もアメリカも、氏の中で独立して、または混ざり合って存在しているのだと思われます。それはとても難しいことでありながら、現代の日本に住む私たちにもまた必要なことです。

 さてさて、”So In Love”との比較です。シナモンもGメジャーとしてディグリー化してみると、以下のように比較されます。

“So In Love”

0:56~(イントロ終わりから歌い出し)

IV△7 → IonIII → IIm7 →IV△7onV →

I△7 → I6 → I△7 → I6 → …

『シナモン(都市と家庭)』

0:42~(Bメロ中盤からサビ終わり)

VonIV → IonII → IIm7 - IIm7onV → 

I△7 → I6 → I△7 → I6 →…

 『秘密のトワレ』と同様に、しかし『秘密のトワレ』と”Angelic”よりは高い可能性で結びつく両曲/両者とはいえ、やはり「偶然似てしまっただけだ」と言い切ってしまえる余地もまだ残っています。が、やはりここでは『無意識の、あるいは無意識→意識の引用』と断定してしまってもいいように思われます。

先ほど『アメリカの大衆音楽にあって日本の大衆音楽にないもの』として挙げた3点ですが、

・調性が平行調間で揺れており、どちらとも解釈できる

・テンションコード

・係留=モード(ブルース/ジャズ/ファンク/ヒップホップ)

 この内『テンションコード』だけが一切使用されていません。恐らく冒頭で書いた通り『ポップさ』の獲得のためにあえて付加していないのだと思われます。テンションコードをつけることによって『洗練された感じ』は獲得できますが、同時に近寄りがたい、馴染みにくい雰囲気も醸し出してしまいます。やはり日本の大衆音楽とテンションの縁遠さを起因とするのですが、「『モード感バリバリのオシャレな人』よりかは『割とよくある感じのファッションの人』の方が近寄りやすいし」とアナロジーすればより容易に理解していただけると思います。演歌、フォーク、ロック、どれもテンションコードとはあまり馴染みがない音楽です。

 しかし、その他ふたつの要素をしっかりと取り入れていくことで「あんまりJ-POPっぽくはないけど、でもJ-POPとして楽しめる」というギリギリのバランスを狙っています。氏の「トゥーマッチにならない感じ、基本型通りだけど遊ぶときは大胆に」というバランス感覚とディレクションは、何億番煎じかはわかりませんが、やはり類稀なる才能です。天才的な編集能力と手さばきで、魔法的版『シナモン』に内在していた『日本とアメリカが濃厚に混ざり合った、ディープすぎるディスコファンク』という食べづらさを上手く取り除き、『J-POPの耳でも充分に聴くことのできる、メロディックR&Bチューン』へと変貌させています。

 

 日本国内におけるポピュラーミュージックの変革はこれまでにも何度となく行われてきましたが、また新たな変革の時代が来ていると思います。80年代に『はっぴいえんど一派』がシーンのド真ん中でその才能を大いに発揮していたように、今また彼らに影響を受けた小沢氏や、小沢氏の作品に影響を受けた若いミュージシャンがその才能を大いに発揮しています。

 と、また同時に、国内のポップスと米国のポップスの関係性においてもまだ考えるべきことは山積みです。『ただ単に米国産の音楽を真似して日本語に作り変えるだけでいいのか?』、『キヲク座のように、国内の音楽を新たなアプローチで鳴らすということはどういうことなのか?』等々…。

またいつか項を改めて書きたいと思います、今だけでも文章の焦点定まってねえのにキーパンチ続けてたら指がスッ転びまっす!!!(笑)

 

 小沢氏の仕事について、特に音楽的側面からアプローチしたものが読みたかったので、簡単にですが書いてみました。もっと深いとこでの小沢さんの仕事のヤバさについては、オレよりも好きで詳しい方が大勢いらっしゃると思うので、そういう方々にお任せしたいと思います。Eclecticの、これはaikoさんが岡村靖幸さんの音楽に対して言った言葉ですが『童貞とセックスが混ざってる感じ』とか、というか端的にあの『R&BでもJ-POPでもないヤバい何か』感が10年経っても全く食えてない!!! オレあのアルバムが日本人の作った音楽の中で一番”Voodoo”の呪術感に肉薄してると思ってるんで!!!(笑) そういうのが読みたいな!!!

 ※追記、『小沢健二の帰還』勧められたのでエクレクの章だけパラパラ読んでみたらここに書いたことと思ってたことが95%くらい書かれてて「うおっそんな間違ってなかった…! 『間違ってないと気がつくことがなかたのならあ〜〜(ドドドドドレレミミファファソソララシシドドミド〜)』だ!」と勝手にアガりました!!!(笑)

 

 以上です!!! 最後までお目通しいただいきありがとうございました!!!

次の3記事はカーテンコール!!! というよりこのブログのある意味本懐!!! 大変長らくお待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした!! やっと終わりましたよ!!! 長い長い仕事の終わりだ(©︎谷王)!!!

いつも通り日韓米のポップス&ブラックミュージックと、加えてヤッベ~中国・台湾産ブラックミュージックのご紹介です!!!

それではまたいつかお会い出来ることを!!! ありがとうございました!!

 

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